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BLの何に惹かれたのか
2006-09-27 Wed 01:14
いつもおじゃましている『ゲイ&腐男子のBL読書ブログ』の「BLに求めているもの」を読ませていただき、私もちょっと考えてみました。

そもそもBL系作品を読むきっかけになったのは、女性作家が女性読者を想定して書く「エロ」とはどういうものなのか、に興味を持ったからなんです。それまでに、男女を描いた一般的な官能小説は読んだことがありましたが、どうも好きになれませんでした。男性にとって都合の良い女を書いてるとしか感じられなくて、物語に入り込めなかったのです。そんな時、秋月こおさんファンの方に『フジミ』を紹介されました。たいへん不純な動機ですが、そういう場面を読んでみたくて手にしました。

そんな理由だったので、そういう場面が書かれていない話では意味がないと思い、あえて『寒冷前線コンダクター』は外して、二人の関係が確実にそこまで進展しているだろうと『リサイタル狂騒曲』を買いました。そして、みごとにハマりました『フジミ』に。肝心の(?)「エロ」がどうこうより、心の底から泣けてしまったんです。

その後、最初から順を追って読んで『寒冷前線コンダクター』の展開に驚いた訳ですが(笑)、悠季くんが女性という物語だったら、「あれを許しちゃう神経が解らん?有り得ん!」で終わってたと思います。他のお話でもそうなんですが、そういう場面を女性で描いていたものだとすると、色々とリアルな諸問題が頭を過ぎってしまうんですよ。物語と現実は違う、と冷めてしまいます。そんな異性愛者の女である自分にとって、男同士の恋愛だからこそ、有り得ない程ラブラブだったとしても、物語として受け入れられたんだと思います。だから「エロ」も楽しめた。

『フジミ』に始まって色々なBL作品を読むようになりましたが、物語の中に描かれているのは、「エロス」の愛だけではなくて、その語源である古典ギリシア語で言うなら、友愛に代表される「ピリアー」の愛と、肉親の情愛の様な「アガペー」の愛、すべてが含まれた愛なんです。時には無二の親友の様に、時には子を思う親の様に、そして何より唯一の恋人として、ひとりの人を愛する。現実には中々有り得ない理想の関係です。そんなファンタジックな愛のかたちが、自分の中にある無条件に認められ愛されたい欲望や対幻想を満足させてくれるんですね。

心の底から泣けてしまったのは、大人になって見ない様にしてたり諦めていたりした、本当の孤独とか愛されたい欲求とかに気付かされたからかもしれません。そしてそれを認めて泣けた事で、ちょっと癒されたんだとも思っています。

現実には、孤独というのは、恋人が出来たり結婚したりしたからといって解消されるものでもありません。逆に大勢の人間の中で感じるより深い、二人で向き合っている時の孤独感というものもあります。それは子どもに恵まれても同じ事であり、血を分けた親子であっても、別々の人間であるという意味では絶対的な他者である事実に変わりはありません。 

考えてみれば、BLの主人公達というのは、二人で一人の人間であるかの様に、必要不可欠の存在としてお互いを思い合っている時がありますよね。現実ではそこまで有り得ない様な、伴侶であると同時に親友でもあり親子のようでもあるような、常に相手を思いやり相手の望む気遣いをし、その想いを感謝を持って受けられるような、深い愛情関係がそこにはあります。これってある意味究極の自己愛なのかもしれない、と思うこともあります。

世間からは、現実逃避だと批判される事もありますが、家族も含めた他者に対し過度の愛情を求めずに、時に物語の二人の相手を思う純粋さに自分を省みて、現実と向き合う努力をするためにも、BLの力を借りているんじゃないだろうか、とも思っています。
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『コンプレックス』文庫化!
2006-09-25 Mon 00:18
再版される可能性もなさそうで、今となっては幻の名作かと残念に思っていた、
まんだ林檎さんのBL漫画『コンプレックス』が、文庫になって発売されています!
朝日ソノラマのソノラマコミック文庫です。
1巻がつい最近発行され、2巻が10月、3巻が11月に発行される予定のようです。書店で見つけた時は嬉しかったです。(旧版あるので買いませんでしたが)

初出は月刊マガジンビーボーイ。
1995年7月号から2002年2月号の間に同誌に掲載され、描下ろしも含めて、
ビブロス ビーボーイコミックスから下記の通り刊行されました。
(1)UNDER18 1996年12月発行
(2)OVER 18 1998年 6月発行
(3)OVER 26 2000年 8月発行
(4)FOREVER 2002年 5月発行

「酒井徹の今週の裏主張」というサイトの、「67.ボーイズラブ漫画が好き!」で紹介されているのを読んで知った作品です。その時には既に書店で見つける事もネットで注文する事も不可で、古書店に頼るしかありませんでした。近隣では見つからず、都内に出かけた時まんだらけで探したんですが、4巻揃って棚に並んでいるのを発見した時には「ラッキー!」と叫んじゃいましたよ。(もちろん心の中で)
「朝日ソノラマさんの1巻紹介文」から
達也と淳一は幼なじみで大親友!! しかしお互いを意識しはじめた二人の関係はいつしか恋人へと変化してゆき…!? 少年期、青年期と人生を懸けた愛をつづるボーイズラブヒストリー!! まんだ林檎代表作完全版になって登場!!
ビーボーイ版4巻を文庫3巻に収めるようなので、「OVER 18」の大学生編「コンプレックス22」くらいまでが朝日ソノラマ版1巻に入ってるのではないかと思います。

その後は2巻以降になると思いますが、社会人となっても恋人同士の関係を続ける二人に、思わぬ転機が訪れます。それぞれの人生を生きて、やがて家族となり終生の伴侶であろうとする二人。幼馴染から恋人へ、いかにもBLらしいシチュエーションの中で、泣かせる純愛を描いて、心に残る作品です。「FOREVER」の描下ろしでは、なんと80代までが描かれています。文庫版で復活して、本当に良かったです。

現在の80代というと、大正生まれで戦中派なわけですが、この物語にはそういう時代背景は全くありません。小学5年生の時から70年以上の歳月が、常に現代を舞台に描かれているように思えます。いや、主人公は1970年代頃の生まれで、30代以降は近未来を描いているのかもしれません。その方が妥当な線のような気がしてきました。多分作者と同年代を想定しているのでしょう。

男同士で添い遂げるお話というと、漫画では『ニューヨーク・ニューヨーク』、最近の小説では『箱の中』『檻の外』が話題になりました。どちらも出会ったのは大人になってからですので、現在で60歳位という設定だとすると、物語の舞台は戦後20年近くが過ぎてからという事になります。アメリカではベトナム戦争の影響の方が大きかったかもしれませんが、ギリギリ大丈夫かなというところです。時代背景や物語の有様は別にしても、『コンプレックス』が描いた70年という時間の流れは、前2作品を上回っています。

その前2作品が、それぞれBLという枠を超えるものであるといっても過言ではないのに比べると、『コンプレックス』はとてもBLらしい展開の中で、あそこまでの時間の経過を描き切っている所が凄いなぁ、と思う作品です。
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「犬」というキーワード
2006-09-19 Tue 02:29
夏の盛りに、野暮用で御茶ノ水へ出かけたついでに神保町へ寄りました。古書店廻りもさることながら、書泉(たぶんブックマートの方)の最上階へ行くのが楽しみだったんです。新刊本はもちろんの事、地元書店では見つからない結構前に発行された本もある在庫の豊富さが魅力です。もちろんBL本の。

地元で買いそびれたちょっと前の新刊をゲットした後、タイトルの「犬」と山田ユギさんの絵に反応して手に取ったのが藤森ちひろさんの『犬より愛して』 (大洋図書SHY NOVELS 2005年7月発行)。藤森ちひろさん初めての作家さんです。買っただけで2ケ月程積読だったのですが、そろそろ読んでみようと思います。

そもそも、剛しいらさんの『ボクサーは犬になる』(イラスト石原理 光風社クリスタル文庫1999年4月発行 )から始まる「ドクターXボクサー」シリーズが好きで、飼い主に愛される犬になることを望む受けと、従順な犬を求める攻めに思い入れがあるせいか、「犬」というキーワードが気に掛かるんですね。

ここ数ヶ月では、
『犬ほど素敵な商売はない』
榎田尤利 著 /イラスト志水ゆき (大洋図書SHY NOVELS 2006年6月発行)
『バカな犬ほど可愛いくて』
英田サキ 著/イラスト麻生海 (海王社ガッシュ文庫 2006年8月発行)
に加えて日下孝秋さんの漫画『ポチの幸せ』(芳文社花音コミックス2006年6月発行)なども読みましたが、BL作品の中に犬系というジャンルがあるような気がします。

受けくんが犬な「ドクターXボクサー」シリーズや『犬ほど素敵な商売はない』は、飼い主を裏切らない犬のような恋人を得て、人を愛する事が出来なかった攻めが本当の愛に目覚めて行く話で、受けの健気さがポイントな作品です。『バカな犬ほど可愛いくて』は飼い主を求めるヘタレ攻めの犬くんが、受けの心を動かしていくお話です。恋人同士な関係には至ってませんが『ポチの幸せ』もその系統だと思います。

どちらにしても「犬」の従順さと飼い主への信頼って、良し悪しは別にして、ある意味至上の愛の形なんですね。『犬より愛して』は、ヘタレ攻め系なのかな。
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「菊花の約」漫画と原話
2006-09-13 Wed 16:55
何故か引続き心惹かれてます「菊花の約」。 図書館で予約していた木原敏江さんの『雨月物語』(マンガ日本の古典28 1996年12月中央公論社発行)を借りに行ったついでに、上田秋成の原作関連本にも目を通してみました。

木原版は、原作9話の内「菊花の約」の他「浅茅が宿」「吉備津の釜」「蛇性の婬」(峰原版では「婬」が「淫」でした)の4話を漫画にしています。ほんの少し作者の思いを込めた脚色をしているお話もありますが、「菊花の約」はほぼ原作に忠実です。この話を初めて知った頃は、江戸時代の出来事なのだろうと勝手に思っていましたが、八雲版ではちょっと判りにくい時代背景なども、絵で見ると理解しやすいです。舞台は戦国時代です。山本タカトさんが描いた丈部左門は、峰原解釈によるのか前髪の若侍風髷なんですが、木原さんの左門は髷を結わない肩までの垂髪で、学者らしい雰囲気になっています。

木原さんは「菊花の約」についてあとがきで、
これは究極の同性愛だそうです。秋成研究の偉い先生も断言しています。
赤穴が5歳年上という以外の二人の容姿の説明は原作にはいっさいありません。なぜだ?
と書いてらっしゃいます。

日本では、武士の時代に、主従の信頼関係(それはそれでツボですが)を賞賛する逸話はありそうですが、あかの他人が義兄弟として信義を尽くすというのは、あまり無いかもしれません。しかも左門と宗右衛門の互いの信頼に応えようとうする心情は、鬼気迫るものがあるわけです。何といっても命がけですし。単なる友情というには、あまりにも濃いですよね。その執着がどこから来るのか。男同士が惹かれあう理由に、容姿の問題を云々する必要はない、と秋成さんは思ったんでしょうか。一読者としてはとても気になりますが。

その秋成さんの原作は、「新潮日本古典集成」(1979年発行)で読みましたが、浅野三平さんの解説によると「菊花の約」の原話は中国の『古今小説』巻十六にある「范巨卿鶏黍死生交」という短編だそうです。他に図書館にあった『秋成の研究』(重友毅 著 1971年文理書院発行)によると、その後に書かれた『警世通言』巻十九にも同じ題名の話があるそうです。秋成の時代には、この様な中国小説がよく読まれていたらしいです。それらの小説は中国の古典を原話にしていて、「范巨卿鶏黍死生交」も5世紀に書かれた『後漢書』独行伝に書かれている范式の逸話を元にしています。後漢の時代に太守(知事職のようなもの?)を勤め人望があった范巨卿(范式)の伝記です。その中に、彼が当時の国立大学で学んだ若い頃、学友だった張元伯と深い友情で結ばれていたという話があります。

2年後の再会を約し范巨卿の元を去った張元伯が、約束の期日を違えずに、酒肴を用意して待つ范の郷を訪ねたという下りには、『雨月物語』を思わせる范母子のやり取りの描写もあります。そして、死に際して范の夢枕に立ち「葬儀に間に合うよう来て欲しい」と告げた張に応えて、馬を走らせその許へ駆けつけたという范の様子が記されています。范が着く前に張の葬列は出発するのですが、墓所に棺を下ろそうとすると棺を引く車が動かなくなってしまいます。そこへようやく范がたどり着きます。泣きながら駆け寄り、棺を叩いて別れを告げた范が引き綱を手にすると、棺は初めて動き出したというのです。その後、范は墓所の傍らに寝泊りして、張の為に塚や植木を整えたというのですから、並々ならぬ思いがあった事がわかります。

『秋成の研究』によると、『古今小説』や『警世通言』にある「范巨卿鶏黍死生交」は、農村出の二人が役人を目指して科挙の試験に向う途上、病に倒れた范を張が看病するという、『雨月物語』の元になったと思われる話になっているそうです。

范の回復を待つうち、試験の期日は過ぎてしまいましたが、范はそこまでしてくれた張に感謝し、二人は義兄弟の盟を結びます。やがて張の元に戻る事を約して范は故郷に帰り、約束の期日を守るために命を落とす、という展開になるわけです。こちらでは死んだ事を告げに来るのは范の方で、葬儀に駆けつけるのは張です。でもその後が、凄い。何と張は范の後を追って死に、遺言により同じ墓に葬られるという結末なのです。それを伝え聞いた後漢の明帝は、科挙を通って出仕した訳でもない二人に位を授け、その信義を讃えた、という事になっています。

秋成もさすがにそこまでは書く気になれなかったのでしょうね。信義の美徳のお話も、後追い自殺して同じ墓に入るって所までいくと、日本人的美意識に合わなくなりそうです。JUNE的美意識にはマッチするかもしれないですが、江戸文学的には後追い自殺より敵討ちだったんですね。とは云え、たった一人で赤穴従兄弟の屋敷に乗り込んだ左門の行動は、下手したら返り討ちに遭うという意味で命がけだし、成功しても社会的に認められない逃亡者になるしかない行為です。秋成も原話の結末に心動かされる部分はあったのでしょう。

それから、秋成が物語の舞台に選んだ出雲では、16世紀に尼子経久が城主を騙し討ちして城を乗っ取ったという史実があり、尼子の家臣には赤穴氏もいたそうです。しかし、宗右衛門とその従兄弟は架空の人物で、『雨月物語』でのお話は中国の小説を翻案した秋成の創作の様です。すると小泉八雲の「菊花の約」も、出雲松江の伝承などではなく、出典は『雨月物語』という事になります。

「新潮日本古典集成」の解説で浅野三平さんは、『雨月物語』を「執着の文学」だと言っておられました。自ら命を懸けて信義を伝えた「菊花の約」の二人は、不信不遇の内に命を落とした『雨月物語』の他の人々以上に、究極の執着を現しているのかもしれません。
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妖しい『雨月物語』
2006-09-11 Mon 02:46
朗読CD「雨月物語~菊花の約~」のサイトであらずじを読んでみたら、原作がとっても気になったので、地元図書館に行って、古典『雨月物語』を探しました。他に、現代語訳の『大庭みな子の雨月物語』(集英社文庫1998年8月発行)も借りてみました。

赤穴宗右衛門は、出雲の主君の命で近江(滋賀県)の佐々木氏の所に行ってる間に主君を尼子経久に討たれてしまい、尼子に肩入れする佐々木氏の元を逃れて出雲へ帰る途中、播磨で病に倒れてしまったんですね。それを看病したのが丈部左門だったんです。宗右衛門は命の恩人である左門に大変恩義を感じます。左門も宗右衛門の品性卑しからぬ人柄に触れ、また共に軍学を習得する者としてその知識の豊富さをも知って、心から敬愛の念を抱くようになりました。それで二人は義兄弟の盟をする訳なんですね。

その後の話はほぼ八雲版と同じですが、赤穴の従兄弟との遣り取りがより詳しく書かれていて、左門が従兄弟の不義を糾弾している内容がわかります。経久が左門を追わせなかったというのは同じで、最後に「軽薄な人と交わりを結ぶべきではない」としめられています。これは二人の信義を重んじた関係をたたえる意味を持っているいるようです。

これで二人の関係は納得なんですが、それに加えてJUNE的妄想を交えた現代語訳作品を見つけました。峰原うらら著『世にも妖しく恐ろしい 雨月物語』(青春出版社2000年7月発行)です。挿絵がJUNE誌上でも活躍された山本タカトさんで、妖しく怖い雰囲気が一層引き立っています。『菊花の約』では、原作には全くそんな記述がないのに、魂となって現れた宗右衛門を、左門が押し倒しちゃうんですよ・・・。しかも死霊なのに抱き締め返して来るし・・・。

あと、これは原作もそういう内容なんですが、僧侶が寵愛していた稚児に死なれ、その死骸に添い寝したあげく肉を食らうという、『青頭巾』という話もありました。その描写と山本タカトさんの絵が凄いです。それからこれは男女の話ですが、『道成寺』のもとになってる話じゃなかろうかという『蛇性の淫』なども、その執着度にJUNE的な雰囲気があります。明るいBL好きな方にはお薦めできませんが、興味がある方は図書館で探してみて下さい。
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菊花の約(ちぎり)
2006-09-09 Sat 14:35
小泉八雲 著 / 平川祐弘 訳
『小泉八雲作品集3』(河出書房新社1977年8月発行)所収
私が図書館で借りたのはこの本と、『約束を守る』という題名で所収されている『十六桜 小泉八雲怪談集』(研文社1990年9月発行)ですが、他にも複数の八雲作品集に同じ話が入っていると思います。6頁程の短編です。
「秋の初めには戻るだろう」
今を去る数百年昔のある春の日、所は播磨の国(兵庫県)。赤穴宗右衛門は義弟の丈部左門にそう別れを告げた。宗右衛門は出雲(島根県)出身の武士で、故郷を訪れることになったのだった。左門が、
「出雲は遠いので、何れの日にお帰りになるか約束していただくのは難しいでしょうが、もしその日を知ることが出来れば嬉しいです。帰国を祝う用意をして門前でお迎え致します」
というと、宗右衛門は、
「私は旅慣れているので予定もたてられる。重陽の佳節の日としたらどうだろう」と提案した。
「九月九日ということですね」
左門は確認し、母とともに涙を浮かべて宗右衛門を見送った。

月日はたちまちに過ぎ秋が来た。九月九日の早朝から、左門は義兄を迎える準備を始めた。それを見た母は、
「出雲は遠いところ、予定通りに戻るとも限らないのだから、帰るのを待ってから支度をしたらどうですか」
と忠告したが、左門は聞かなかった。
「義兄上は約束を破るような武士ではありません。もし帰ってから支度を始めたりしたら、義兄上の言葉を疑っていたことになってしまいます」

しかし、昼過ぎても待つ人の姿は見えず、やがて日は暮れてしまった。
「今夜はもう休んで、明日また待てばよいでしょう」
という母を先に寝かせ、左門は一人宗右衛門を待った。けれど、夜が更けても帰っては来なかった。もしや・・・、と諦めかけたとき、遠くから軽々と足早にこちらへ向う男の姿が見えた。それは待ち人宗右衛門であった。

喜んで母を起こそうとした左門を制し、饗された酒肴にも手を付けず、宗右衛門は帰りが遅くなった理由を静かに語りはじめた・・・。
怪談集にあるお話しなので、大方察しは付くと思いますが、戻ってきた宗右衛門は生身の体ではありません。出雲を訪れた宗右衛門は、新領主尼子経久の家来になっていた従兄弟の願いで、経久に会いました。ところが、新領主に仕える気は無い事を告げると、経久は従兄弟に命じて宗右衛門を監禁させてしまいます。いくら願い出ても許されず、見張りも多くて抜け出す事も出来ぬまま、約束の日となってしまいました。

「人は一日に百里を歩く事は出来ないが、魂は日に千里を行く」
という言い伝えを思い出し、宗右衛門は左門との約束を命がけで守ったのです。残された左門は出雲に赴き、従兄弟を切って宗右衛門の敵をとった後、姿を消しました。しかし経久は、家来たちに左門を追わない様に命じた、ということです。

本当に短いお話です。宗右衛門と左門がどういう義兄弟なのか、出雲出身者が何故播磨に居るのか、という説明もありません。二人の武士の信頼関係がどうしてこんなに強かったのか、具体的なエピソードなどもまるで描かれていません。二人の年齢もわかりませんが、共に妻子がいる様子はありません。登場する近親者は、左門の母と宗右衛門の従兄弟だけです。

この物語を知ったのは、多分高校の授業でだったと思うのですが、実は作者が誰だったのかすっかり忘れておりました。でもその内容は印象に残っていました。もともとの伝承は知りませんが、上田秋成が『雨月物語』に書いているお話でもあります。木原敏江さんがそれを漫画にされてるそうなので、そちらも読んでみたいです。『雨月物語』の方には、もう少し詳しく二人の事が描かれているかもしれません。

それにしても気に掛かる宗右衛門さんと左門さんの篤すぎる信頼関係。それから、家来になってくれないからって監禁しちゃう尼子経久の仕打ち、というか宗右衛門への執着って凄くないですか。とか、高校生の頃はBL系ジャンル(当時は耽美とか少年愛?)には全く興味がありませんでしたが、今となってはしっかりBLアンテナに引っかかるお話だと思います。

今日は9月9日、この話の旧暦とちがって太陽暦のですが、重陽の節句というと『菊花の約』を思い出します。

P.S.
上を書いた後に検索してみたら、声優の石田彰さんが朗読CD「雨月物語~菊花の約~」を出されているそうです。このリンクのあらすじに、二人の出会いが書かれてました。なるほど。尼子経久は只の敵か・・・。
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未来の記憶・風の行方
2006-09-05 Tue 01:18
国枝彩香 著 ビブロス ビーボーイコミックス
『未来の記憶』(2002年10月発行)
『風の行方』(2004/年10月発行)

「マガジンビーボーイ」と「ビーボーイゴールド」誌上に、2001年6月から04年8月の間に掲載された健人×瑛の高校教師カップルのシリーズです。あらすじは、
養護教師のゆきえにプロポーズを断られた化学教師の熊谷健人は、偶然居合わせた見知らぬ美青年に誘われるまま、ヤケ酒を飲んで一夜を共にしてしまう。けれど朝目を覚ますと相手は姿を消していた。一時の過ちは忘れ、心機一転ゆきえに再度アプローチしようと心に決めて出勤した健人の前に現れたのは、美術教師として赴任してきたあの夜の美青年、香月瑛だった・・・。
行きずりの出来事は無かった事にして、ただの同僚として接していこうとする二人だったが、お互いを意識する気持ちがしだいに募っていく。しかし男同士であるというのは、同じ学校の教師であるという事に加え、幼くして両親を失った健人にとって、育ててくれた祖父母の理解を得られない事など、ハードルの高い問題が山積。真面目な健人と、軟派な外見に素直に言えない想いを隠した瑛の、すれ違いつつも純な恋の行方は・・・。
書店で平積になっていた『いつか雨が降るように』(2006年6月発行 竹書房)の表紙に目を惹かれて、国枝彩香さんという漫画家を知りました。その独特の叙情的雰囲気と、気だるげな暗さ、切ないお話は好きだけど破滅的なアウトローはちょっと苦手な今日この頃、どっちなんだと躊躇して結局読まず終いでした。

最近、同じ竹書房の『夏時間』( 2002年8月発行) を古書店で見つけて読んでみました。たしかに破滅的な傾向のお話もあるものの、その切なさとか郷愁を感じる絵柄が結構好きだなぁ、と思いました。その後にまた古書店で見つけたのが、この2冊です。

竹書房の方は雑誌「麗人」掲載作品なのですが、JUNE的傾向もある「麗人」と違って、「ビーボーイ」自体が明るめBLを目指しているのか、この2冊は基本的にハッピーエンドだし、ちょっとコミカルな面もあります。前向きで明るいラブラブな物語ですが、瑛の時に軟派な行動も切なさと一途さを醸し出して、真っ直ぐだけど保守的でデリカシーに欠ける所もある健人との対比が、中々面白いです。

『いつか雨が降るように』の表紙から感じた印象とはだいぶ違うのですが、逆に『いつか雨が降るように』の方も読んでみたいと思いました。
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